演奏記号と彼の口癖



落ちていたのは楽譜だ。


ギアッチョは身に付けようと決めたものを取り止める事はない。
整理整頓を好む彼であったが、目当てのものが見つからない事に痺れを切らしクローゼットをひっくり返したのだろう、珍しく散らかりっぱなしの部屋を少しでも片付けてやろうかと床のものを纏めていた時に、紙焼けして古ぼけたそれが目についた。

何の曲かとメローネは目を走らせるが、元々楽譜が読めないのでちんぷんかんぷんだ。
積んだ本の上に重ね、引きずり出された夏物をたたんでいるとギアッチョが帰って来た。

「おかえりギアッチョ。セーフだったか?」

「おう、ギリで間に合ったぜ。…ああ、ひでえ部屋だ」

「そーとー焦ってたからなァ。ところでこれアンタの?何の曲だ?」

ひら、と目の前に出された楽譜を確認してギアッチョが顔をしかめた。
几帳面にもゴミ箱に放られそうな所を制して、メローネが尚も問いただす。

「あ、アンタの?何か楽器できんのか?」

「できちゃわりーかよ。…くそ、全部捨てたと思ってたのによ」

忌々しげに吐き捨てるギアッチョだったが、それに反してメローネは目を輝かせてはしゃぎ出した。
ギアッチョは何か楽器が演奏出来るとか、楽譜が読めることをそんなに特別な事だと思ってないらしい。すごい、すごいと連呼するのを聞いて不思議に思う。

しかし、手放しの賞賛は疲れた頭に心地よく、僅かに表情が緩んだ。

「別にすごかねえよ」

「すげえよ!こんな暗号が読めて音を奏でられるんだろう?ギアッチョちょーかっこいいよ!憧れた!」

メローネが隣に回り込み、一緒に楽譜を覗く形になる。
音符の意味は目で追うだけでわかるように鍛えられていたギアッチョだ。
こんな単純な暗号があってたまるかと思ったものだったが、このつながっているのは何かとスラーを指し、この四角いのは何かと休符を指す。
本当に何も分からないらしい、「ドの音ってどれ?」などと子供のような事を聞いて来るので思わず笑ってしまった。

「ん、字もあんじゃん。…ナニ?明るく?」

「こっちで使う場合は“速く”って意味だ」

「やっぱり暗号じゃあねーか」

そろそろ掃除を始めたかったのだが、メローネはすっかり好奇心旺盛な「いい生徒」になっている。
教えてやっているという状況に少し気分が良かったので次の質問をしばし待つと、やはり楽譜の上に指が滑った。
メローネが首をひねる度に頬に当たる髪がくすぐったい。

フォルテも知らないのかとからかうと、さっきのアレグロのように意味が違ったりもするのだろうと言うので、それにしたって、と苦笑する。

「モデラート?これ何だ?」

「中くらいの速さで」

「この棒は?」

「テヌート。音を保って」

「これは?」

「ディ・モールト。 非常に、とか、すっげえって意味だ」

「ふうん」

頬に触れる髪の感触がなくなったかと思うと、その代わりに音を立ててキスをされた。


「ギアッチョ、ディ・モールトすき!」


にこにこと笑いかけて来るメローネをひとつ小突き、手元の楽譜を丸めてゴミ箱へと放り投げる。
すぐに不満の声が上がったが、無視して部屋を片付け始めると仕方なさそうに黙り、埃を逃がすためにメローネが窓を開けた。
お気に召したらしい、「ディ・モールト、ディ・モールト」と何度か歌うように言いながら床に落ちた服をたたんでいるので、自分は本を並べたり小物の整頓をする。

手伝ってくれるのはありがたいのだが、その下手な鼻歌は「ディ・モールト」うるせえな、とギアッチョはまたひとつ苦笑を漏らした。





おしまい



楽器の弾けるボンボンギアッチョもえる。

まんがでもよかったな、これは…。
ディ・モールトが口語では不自然と言うのはあまりにも有名ですが、メローネの不自然な口癖はギアッチョが切っ掛けだったりなんかしちゃったりしたら、わたしはもうほんとうにどうしようとしか言い様がありません。

はいはい、妄想妄想!!笑

ターンテーブルも似合うけど、エレキでもペットでもヴァイオリンでもピアノでももれなくわたしがもえます。

メローネはトロンボーンがいいです。

メローネはトロンボーンがいいです。

大事な事なので二回言います^v^(わたしどんなけトロンボーン好きやねん)
それにしてもこのギアッチョやさしいな。