脱兎のごとく、それでも蛇は抱え込んだままリヴィングを後にするメローネとプロシュート。
素早く駆けた氷点下でメローネの髪が少々凍って散らばり落ちた。

「ああ…っきしょ!」
「てめえのせいでとばっちりだぜメローネ!」
「けしかけたのはアンタじゃねーか!俺は可愛い毒蛇ちゃんをギアッチョに見せたかっただけだぜ!」
「アァ?毒あんのかよそいつ!」
「ないけど、見た感じだ!」

事務所のフロアからライトな悲鳴が聞こえて来たが、イルーゾォがいるから大丈夫だろう。
自然現象ではなくスタンド攻撃なので、鏡の世界に逃げ込めば助かるはずだ。
それよりも重要なのは、この状況から逃げおおせられるかだ。
その場で固まったまま周りの全てを凍らせているのではなく、ギアッチョは二人を追い掛けて来ている。少しの油断が命取りとなるので、二人は速度を緩められなかった。スケーティングをされてはかなわない。

「…脇腹痛くなってきた…」
「おめー運動不足なんじゃねーのか?モニターばっかり眺めやがって!」
「人をヒッキーみたく言うなよなァ!」
「おいそっち!」

適当な路地裏に逃げ込んで、少しの間息を潜めていると今度は悲痛な悲鳴が聞こえた。同業者のものではなく明らかに一般人のものだ。

「…来ちゃったなァ…」
「超来たな」
「このままうまく撒くぞ。ったくよォ、ガキみてーにプッツン切れやがって!」

二人はストリートの死角の奥に進む。気配を殺しているうちに猛スピードのギアッチョが周りの被害を甚大なものにしながらも通り過ぎたので、ほっと息をついた。
あのままどこまで捜し回るだろうか。諦めて戻って来るまでには機嫌が回復しているといいが、しかし

「…ギアッチョ、今なんか欲しいものあったか?」

二人はこのまま事務所に戻る気でいる。イコール、リヴィングでのんびりしている姿を見られ、最悪な自体に陥る…というのは火を見るより明らかだ。
せめてもの緩和剤を用意しようと思ったらしいが、プロシュートは「シラネ」と一蹴した。

とりあえずさっさと戻ろうと裏道を歩き始めるが、メローネの歩調はだいぶゆっくりだ。
うんうんと唸る声を無視しながら歩き続けてしばらく、ぽつりと諦めたように一言零した。

「…ベアトリーチェ、捨てて来たほうがいいか…?」
「あん?!」

見ると、落胆を露にした顔で蛇のフォルムをゆっくりとなぞっている。
既に情が移っていたらしく、呟く声には大分躊躇が感じられた。

「バァカか、あんなマンモーニのためにわざわざ捨ててやるこたねーだろ」
「でもスゲー嫌いみたいだしなァ…イルーゾォにやろーかな」
「捨ててねーじゃん」
「俺の手元は離れるから捨てたって事じゃねーの?」
「飼い主がどうとかよりいる事が問題だっつの。お前ワザと言ってんなおい」
「ああ、プロシュート、車出してくれよ」

いつものように笑いもせず、ウォレットチェーンに引っ掛かった鍵を顎で指す、
反論したいのは山々だったが、正直ずっと飼い続けるのも如何なのもかと思っていたし、何よりもメローネが聞かないと分かっていたので、近くの原っぱまで運んでいってやった。



ライトな悲鳴から三時間後、やっと戻って来たギアッチョはまずホルマジオに頭を張り倒された。
その後、イルーゾォからは呆れた視線を送られ、リゾットからは説教。

確かにやり過ぎたと反省はしていたが、元凶は他にあるのにとギアッチョの機嫌は悪くなるばかり。乱暴な足音を立てて歩きながらどう発散してすればいいのかと思案している所に、控えめな声が掛かった。
それとほぼ同時に左のローキックが空を切るが、ヒットする瞬間にプロシュートによって止められた。

「おら、ちっと待て」
「プロシュー、ト……大体テメーもなああ!テメーらさえあんなもん持って来なきゃよォ、つーか何なんだよッ!俺はこいつに一発入れなきゃ気が済まねえんだよォオ〜〜ッ!オメーはなんだ、ボディーガードか!突っ立ってんじゃねえ姫かオメーは!」
「悪かった、悪かったギアッチョ。あの、ベアトリーチェは、捨てて来たから」
「あっ?」

今日一緒に届いたケージも、餌も全て処分したと聞いてギアッチョが驚く。

「そんなに苦手だとは思わなかったんだよ。俺はまじに可愛いと思ったんだけど…」

いつものアッパーなテンションがなりを潜め、頭をうなだれるメローネ。
どうせまだはしゃいで蛇を腕に絡ませて遊んだりしているのだろう、それなら今度こそ凍らせてやろうと思っていたので、肩透かしを越えて戸惑った。

「…別に捨てろとまで言ってねーだろ!」

開口一番言ったはずだが、この際その辺りは問題ではない。

「いいんだぜ別に」
「良かねーだろ!」
「いいんだって。俺飽きっぽいしな。三日もすりゃ飽きてたぜきっと。皆の評判も良くねーし?大自然に放して来たよ。ごめんな、ギアッチョ」

それでもどこか寂しそうに笑うメローネに言葉を失っていると、僕らの兄貴プロシュートおにいさんが二人の頭をぐしゃぐしゃと掻き回しながら間に入り、「で、ギアッチョくんはどーすんだ?」と聞いた。
事を荒立てた張本人が何をえらそうに、と思ったが、目の前で珍しくしょんぼりしているメローネにどんどん戦意が喪失させられて行く。

「…もったいねー事してんじゃねーよ」
「十分楽しんだから構わねえし」

ばつが悪そうに視線を逸らすギアッチョにメローネはにっこりと笑いかけ、「よーし」とプロシュートが二人の手を引いた。

「走ったらハラ減ったな、メシにすっぞ!」
「おとーさん今日のご飯なにー?」
「知らねーよ!」
「ははははっ!」

真ん中にプロシュートを挟み三人手を繋いだままドアを開けたので。リゾットが口を付けていたカップの中のコーヒーが盛大に揺れ、リヴィングに笑い声が響いた。





「…っか、しないィイィィィィ!!」

草木も眠る丑三つ時。今回の騒動で疲れた身体を休ませていると、夜の静寂を激しい悲鳴が引き裂いた。

「イルーゾォの声だ!」

とことん起きようとしないプロシュートを除くメンバー全員が、何があったのかとイルーゾォの部屋へ向かう。
真っ先にドアを開けたのは、ネットサーフィンをしていた宵っ張りのメローネ。鏡に逃げ込んだイルーゾォと、それからベッドの上を確認して、あっと目を丸くした。

「ベアトリーチェ!?」

次々と集まって来たメンバーの前に、シュルシュルと舌を出し入れして我が物顔でのたくっている蛇の姿が映る。

「おいイルーゾォ、大丈夫か?咬まれてねーか?おッ前!捨てて来たんじゃねーのかよ!」

ホルマジオが鏡を叩きながらベッドの上の蛇を投げ渡すと、他のメンバーもそれに続いて声を荒げる。メローネは蛇を首に巻き付けられた状態で

ぽかんとしていた。

「…蛇に帰巣本能って、ないんじゃなかったか…?」

安眠を妨害されたギアッチョはそれでもなんとか切れずにいたが、ぺったりと座り込むメローネに、「その蛇、飼ってもいいよ」と優しい言葉をかける者は誰一人としていなかった。



おしまい




なかよし暗殺チーム。
プロシュートおにいさんが一番悪いのになんでか一番えらそうですね。
それにしても暗チがナチュラルに一緒に暮らしています。


まあ、どういう事かと申しますと、
こういうことです。

メローネの髪を桃色にしてみたらファンタジーやメルヘンな感じになったよ。
何かを彷佛とさせると思ったら、信号だ、これ。



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