我が家に蛇(レプリカ)があるのですが、手に入れられた事があまりにもうれしかったのでその勢い同じ名前になってしまっています。
気が付くとそれ意外に名前が考えられなくなっていました。
そ…そんなつもりじゃないから!ほんとちがうからーーー!!!
キングスネークのロンド



「どうだギアッチョ、美人だろ?」

ぬっ、と顔の前にいきなり生き物を差し出されて、ギアッチョが半身を引いた。
くるくると動く丸い目と、存外にさらさらしているのだが、それを思わせない光沢、細く赤く伸びた舌を器用に棚引かせているそれは、どこからどう見ても「蛇」だった。

「ベアトリーチェって言うんだぜ」

蛇の首根っこを軽く持ったメローネがにこにこと笑いながら更にそれを近付けるが、ギアッチョはテンポの良いバックステップで遠ざかり、「捨てて来い」と吐き捨てた。

きょとんと音がする疑問符に、気持ち悪いとの否定が被さり、メローネの眉根が少々歪む。

「何言ってんだ、こんなにかわいいのに。あ、何か勘違いしてんだろ!拾ったんじゃないぜ。ちゃんと買ったの。」
「何でわざわざヘビなんか買ってんだ!趣味わりーな!」

先程までの地をはう声から一転、甲高い声をメローネに浴びせると更に遠ざかる。
ギアッチョは動物は嫌いではないが、爬虫類は好きではないようだった。
そもそも愛玩動物としての馴染みがないし、可愛らしい外見と言う訳でもない。
そういうものは小汚い地面を這いずっているんだろう、というイメージも相まって、ギアッチョは眼前に突き出された生き物を否定した。

「んん…?第一印象が悪かったか?まあまあちょっと持ってみろよ。意外な可愛さに気付くぜ?」
「ンな…ッ!やめろやコラ!近付けんじゃねェ!」

その一瞬後に冷気が頬を掠める。
は、と気付いたメローネがすぐにその網目のついたしなやかな細身を抱き込むように庇った。

「うわっ!よせよギアッチョ!寒さに弱いんだからなこいつは!あっぶねーなあもう、冬眠する所だぜ!」
「永遠に眠らせてやる!」
「何でそんなに毛嫌いするんだ!」

心底分からない、といった顔でメローネが不満を漏らす。
いとおしそうに毒々しい模様を撫で回し、軽くキスまでしている状況をギアッチョは苦々しく見ているだけだった。

「あ、でも勝手に名前付けちまったけど、ベアトリーチェで良かったか?アレッシアとかヴァレンティーナとかのがいいかな?」
「んなもんどーでもいいんだよ!飼、う、な、つってんだ!」
「そいつは聞き入れられねえ。もう一式揃えちまったからな」

大口を開けて、ははは、と笑いながら避難をすり抜けるメローネを見て、ギアッチョは「蛇が蛇飼ってどうすんだ」と思ったものだった。

「ああん?何だそりゃ?」

不意に声を描けたのはプロシュート。おののくギアッチョを押し退けて、訝しげに、しかしたっぷり五秒ほど蛇を眺めた。

「かわいいだろ?俺のベアトリーチェちゃん」

メローネの腕に絡み付く蛇を一撫でして、プロシュートはつまらなさそうに軽いため息をつく。

「お前なあ、蛇が蛇飼ってどうすんだよ」

まさに思っていた事を的確に口に出され、ギアッチョが笑う。
それが駄目押しだと悟って、メローネはやはり腑に落ちないという表情をした。

「だァれが蛇だってェ?言ってくれるなプロシュート」
「いいじゃねえか、自分で可愛いっつってただろ」
「俺の可愛さはもうちょっと別物なんだよ」
「お前死ねばいいのにな」

プロシュートがメローネの額を指で弾き、二人でくすくすと笑いあう。ギアッチョはその隙にとリヴィングを去ろうとしていた。が、

「おいギアッチョ、お前さっきからビビってんなぁ。こんなもんが怖えのか?マンモーニ」

声高な揶揄にかちんときて、すぐに振り向く羽目になった。

「ビビッちゃいねえよ!普通に気持ち悪ィだろうがそんなもん!」
「そーれがビビッてるっつーんだよ」
「ビビッてねえ!」
「ならちょっと触ってみな。意外と可愛いぜこいつ。」

ほれ、とプロシュートが蛇の首を掴んで、先程メローネがしていたように顔の前に突き出して、ギアッチョをひるませる。
ここで引いては少なくとも一週間はマンモーニと呼ばれ続ける事が明白だったので逃げる事はしなかったが、普段の生活ではまずお目にかかる事のない輝く丸い目とちらちらと翻る舌の異質さについ釘付けになり、しばらく手を出せなかった。

「怖ェんだろ?さっさとゲロしちまえよ」

にやにやと笑う声に苛立ち、なぜわざわざ触りたくもないものに触らなければいけないのかと悶々とさせられる。しかし、それをまったく気にする風でもなく「蛇平気組」はあっさりとした会話に移行しており、それがますますギアッチョの苛々を募らせた。

「メローネ、こいつメスか?そんな色っぽい名前つける程のモンかねえこいつが」
「ん〜どっちだったかな。まあいいだろ?そっちの方が愛着わくしな。俺はこいつを手に入れたら女性名を付けるって決めてたんだ」
「お前こーゆー女が好みか?」
「たまには狡猾なのも悪くないさ」

特に実にならない会話を続けるが、二人の目はギアッチョから離れない。
やめてやる気はまったくないらしく、いつ触るのか、どう触るのかと気長に動向を確認している。

(こいつら…遊んでやがる)

その時、大人しくしていた蛇が急に暴れ始め、少なからずプロシュートを焦らせた。

「うお…っと!」

するりと指の間を抜け、蛇はあろうことかギアッチョの顔面にダイヴし、滑らかな動きで肩口から首へと絡み付いた。
暴れていた蛇はそのポジションが落ち着いたようで、すぐに動きを前のようなゆっくりとしたものに変える。

「ちゃんとしつけしてんのかよお前よォオ〜」
「いや買ったばっかだし…っつーか固定しすぎたんだよ。あーあ、ごめんなベアトリーチェ、こっちおいでー、…アレ?」
「…」
「ギアッチョ?」

蛇を呼び戻そうと差し出されたメローネの指が、そのままギアッチョの頬に触れる。
ぺたぺたと二度ほど感触を確かめるが、

「フリーズした。再起動ってどこ押しゃいいんだっけ」
「やっぱりか!このマンモーニ!」

堰を切ったようなプロシュートの笑い声がリヴィングにこだまし、他のフロアで平和に過ごしているメンバーの耳を劈いたが、まず最初の餌食になったイルーゾォが注意を促したらしい、誰一人として様子を見に来るものはいなかった。

「おいおいおい、そりゃあねえんじゃねえか?お前よォオ〜〜」
「ギアッチョ?ギアッチョそんなに蛇苦手だったのか?うわっわりい、ごめんな!」

手早くギアッチョに絡まっていた蛇をほどき、自分の元へと手繰り寄せる。
ケージに戻して来ようと体制を整えた瞬間、リヴィングの気温が一気に下がった。

「…」
「逃げろォい!!」



《2》